海外修学旅行今後の展望に関して
昨年の9月26日に新型コロナウイルス感染症に関する水際対策見直しが政府から発表されました。今回の見直しにより、10月11日以降、68の国・地域に対してビザ免除措置が再開され、同時に入国時に煩雑な手続きとなるPCR検査を実施しない方向となりました。この発表により、日本へ帰国の際の手続きの煩雑さは一部残りますが、コロナ前の出入国の条件にほぼ戻ったといって良いでしょう。では、コロナ以前に海外修学旅行を実施していた学校が、また以前と同じように海外への修学旅行に戻ってくるのでしょうか。
3年前との価格面での比較
上記の通り、出入国の条件面は揃ってきましたが、3年程前の状況と決定的に変わった面があります。円安の影響、現地の物価上昇、そして燃油サーチャージの高騰による価格面での上昇です。図1~3はその3つの要素の推移を示したものです。海外修学旅行で人気ポーションのグアムを例にとって説明したいと思います。図1は為替の変動を示したグラフとなっており、コロナ報道が過熱した2020年1月の為替で調べてみると、その当時のレートが1ドル約110円で、2023年2月現在のレートが1ドル約136円であることから、この3年の間に、グアムで同じ物を購入することを考えた場合、1.23倍の日本円を払わなくてはいけなくなった計算になります。旅行の分野で考えてみると、現地のホテル、バス、食事、観光などの仕入れ価格が1.23倍上昇する計算になります。
ただ、現地での価格上昇の要素はそれだけではないのです。図2で示している通り、これに加えて現地でのインフレ率(物価上昇率)が加わってくるのです。日本だけにいるとその影響をあまり実感しないのですが、グラフの通り、年率で約4%ずつ差が生まれている計算になります。知らないうちに少しずつ、ただ確実に日本とグアムの間で物価に対しての乖離が大きくなっている計算となります。グラフの通り、この3年間で1.043≒1.12倍、日本とグアムとで物価に関しての開きが生じてしまった計算になります。この数字と先ほどの円安の影響で試算された数字をかけ合わせた1.23×1.12≒1.37(倍)が3年前との金額差を理論的に表した数字となります。
そして、最後にトリプルパンチのごとく、原油高による、燃油サーチャージの高騰が消費者の購買意欲を否が応でも下げる要因となります。図3はグアムまでのサーチャージを示した表です。数値は片道分となっており、コロナ前のその金額は片道3,000円でした。それが3年後の2月現在で片道16,000円まで上昇しており、往復での金額差としては、26,000円となっています。(※2023年2月現在、全日空のグアム線はフライトが飛んでおりませんが、わかりやすく説明するために全日空の表を用いました。)
都立(公立)学校での海外修学旅行の現状と今後の展望
ここまで考えてみますと、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策が緩和されたからといって、以前のように海外修学旅行がそのまま戻ると考えられるでしょうか。実際に東京都立高等学校での海外修学旅行にあてられる予算は、115,000円(燃油サーチャージを除く ※都道府県別修学旅行実施基準概要より)と決まっております。上記で説明させていただいた通り、3年前とは状況が全く異なっており、まずは予算額の見直しから検討に入らなければいけない段階に入っており、この傾向がこのまま続けば、海外修学旅行への回帰は現実的ではないような気がしてなりません。学校からは、今後のグローバル人材育成の一環として、海外に目を向けさせるために海外修学旅行をなんとか実施させたいという思いが、ひしひしと感じられるのですが、修学旅行実施基準の見直しが行われない限りは、思うような学校運営が出来ないというのが実情のようです。
中高生といった比較的に若年のうちから、海外の人たちとコミュニケーションをとる国際交流の経験、またその土地の歴史や文化、宗教などの見聞を高め、見識を拡げることは、間違いなく今後の日本の国益にも繋がり、今問題になっている国際紛争を解決するための糸口になることでしょう。学校の思いを解決するためには、基準予算の増額をしその差額分を保護者様にご負担を頂く方法か、もしくは、国や都道府県である程度の助成金の検討をしていただくほかはないようにも思えます。
旅行会社である弊社での企業努力はおこなっていく方向ですが、今の潮流はその努力云々のレベルをはるかに超えている気がしてなりません。政府や都道府県で主導している「Go Toトラベル」や「全国旅行支援」のような積極的な施策にどうしても期待が高まってしまいます。もちろん、海外に実際に行くことなく、国内にいながらにして、海外体験を体感していただくような「ブリティッシュヒルズ」や「東京グローバルゲートウェイ」「オンライン英会話」「在日留学生との交流」などの事業はますます需要が高まっていく事が予想されますが、その国内での体験をすればするほど、海外への憧れはさらに強くなっていくのではないでしょうか。学校、自治体、事業者が三位一体となって検討していかなければいけない課題であると考えています。
私立学校での海外修学旅行の現状と今後の展望
他方、私立学校ではどのような状況か、と問われると価格面に関しては、全く同じ状況ではありますが、公立学校とは違い、予算を学校主導で決定することが可能です。また、私立学校は学校の募集自体でグローバル教育を主にしているところもあり、予算が高くなったからといって、海外修学旅行の実施をやめてしまうという決断を下せないのが実情のようです。保護者様からは、グローバル教育を実施しているからその理念に共感し、入学させたという海外修学旅行実施に前向きな声と、反面、上昇する旅行代金に対して、国内旅行でも良いのではないかという声もあり、学校はその両方の声に対してしっかりと耳を傾け、難しい判断を迫られている事と思います。最近の傾向では、海外修学旅行と国内修学旅行の複数コースを用意し、入学時に選択させるような学校も増えてきており、この流れはさらに加速していくように思えます。D&Iという観点からも、各ご家庭の事情により、いろいろな学びを実現できる場の提供をしていく学校が増えております。
課題としては、複数コースを作成することによって、引率教員様の人員確保が出来ない点、ならびに、資料が多岐に渡ることによる担当教員様の煩雑さという点が共通の悩みの種ではないでしょうか。
前者に関しては、当日の引率数を極力最小限化して、安全なご旅行を実施できるのかという事が鍵になりますので、今後、ますます現地でのサポート力の強化という点がテーマになってきます。幸いにも弊社では、海外60か国112都市158拠点(2023年2月現在)があり、海外修学旅行で訪問するような主要都市には直営の支店を設けており、何かあった際にしっかりと対応させていただく体制を整えております。このサポート力強化に関しては、今後、新型コロナウイルス感染症明けで実施する学校にとっては、益々重要な要素となってくると思います。
また、後者に関しては、DX化をいち早く進めることで、教員様の負担軽減をいかにして実現できるのかという点が鍵になります。参加申込書の回収やパスポートデータ回収といった、従来では紙媒体で教員様が回収していたことを、旅行会社でデータ集計し、その結果を教員様にフィードバックするような体制にしていくことが、今後ますます必要になってくるものと思われます。
海外修学旅行の展望
新型コロナウイルスにより、海外修学旅行の背景、考え方、実施の方法はがらりと変わりました。
ただし、生徒様にとって、若いうちのかけがえのない学びを妨げる事だけはしてはいけず、より柔軟な発想と対応をしていくことが肝要であると痛切に感じました。
株式会社エイチ・アイ・エス
法人営業本部 教育旅行事業グループ 上枝秀徳
参考サイト
海外修学旅行の意義とは
国土交通省 海外教育旅行のすすめ 4.実例の紹介
国土交通省 修学旅行の教育的位置づけ
修学旅行のあり方に変化、時期は分散傾向、海外はごくわずか