教育旅行先としての
カンボジア
カンボジアについて
東南アジアのインドシナ半島南部に位置するカンボジアは、 タイ、ラオス、ベトナムに隣接し、国土は日本の約1/2、人口は約1690万人です。日本から首都プノンペンまで全日空(※2023年2月時点運休中)の直行便が運航しており、フライト時間は7時間、隣接している国を経由して空路・陸路で入国する事も可能であります。 2019年のカンボジアへの渡航人数は、国連世界観光機関(UNWTO)の統計によると、約 662万人でした。このうち、近隣国の中国、ベトナム、タイが最も多くの旅行者を送り出しており、日本からの訪問者数は約38万人です。カンボジアは、アジアの中でも観光客数が急速に増加していた国の1つでしたが、COVID-19パンデミックの影響でその数が大きく減少しました。2022年後半より世界的な渡航規制の緩和を受け、航空需要が急速に回復するとともに旅行者も増加し、今後早いうちにコロナ前の水準に戻ってくることが予想されております。 (※2021年のカンボジアへの外国人旅行者は約196,000人で、2020年の130万人)
カンボジアが抱える社会問題とは
そんなカンボジアですが、アンコールワットを始めとする世界遺産の寺院遺跡や、カンボジア内戦の歴史、現在の政治情勢など、豊かな歴史や文化を持つ国です。 特に、アンコールワットは、カンボジアの象徴的な存在であり、世界的に有名な観光地でもあります。アンコールワット遺跡の玄関口として国際空港もあるシュムリアップ町は多くの外国人観光客に溢れ、近代的なホテルをはじめ、お洒落なレストランやバー、マーケット、ミュージアムやアートセンターなど観光施設も充実しており快適に滞在することができる観光都市であり、その華やかさは目を見張るものがあります。
外国人観光客で華やかさをみせる観光地とは対象的に、カンボジアはアジアの中でも貧窮率が高い国の1つとして知られています。国土の多くが農村地帯であり、農業に従事する人々が多く暮らしていますが、農業は未発達であり、農民の生活水準が低く、貧窮が深刻な社会問題の1つになっています。
カンボジアとSDGs
国連が掲げる持続可能な17の開発目標
- 1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロ
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も
9.産業と技術革新の基盤をつくろう - 10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任 つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう
国連がSDGs(持続可能な開発目標)17の目標を掲げています。
これは貧困や不平等、気候変動等の社会課題や環境問題を解決し、2030年までに持続可能な世界を実現するための世界共通の目標です。 17の目標と169のターゲットに取組むことで「地球上の誰一人として取り残さないこと」を目指しています。カンボジアは上記の貧窮や教育問題などの社会課題を抱えている国であり、特に(ターゲット1,3,4)目標達成のため、様々なセクターからの支援が続いています。
例えばこのターゲット(1.貧困をなくそう)を達成するためには、複数のアプローチが必要であり以下のような取り組みが必要であると考えられています。
1.教育の普及
教育を受けることで、人々は職業技能を身に付けたり、自己啓発や自己実現を目指すことができます。
学校や教育機関の整備を進めることが重要です。
2.雇用の創出
カンボジアでは、特に農村部での貧困が深刻です。
地域経済の活性化を図り、雇用を創出することで、貧困の解消が期待できます。
3.健康・福祉施策の整備
貧困層の健康や福祉を支援することも貧困問題の解決につながります。
医療施設や社会保障制度の整備、食料や水の確保などが必要です。
4.貧困層への直接支援
カンボジアでは国や国際機関による貧困層への直接支援が行われています。
その内容は、貧困層の生活基盤を整備し、経済的な支援や食糧や衣類の提供などが行われています。
これらの施策は、経済発展や社会制度の整備など、長期的な視点が必要であり、単純な問題ではありません。しかし、政府や国際機関、市民団体など、多様な関係者が協力して、カンボジアの貧困問題を解決する取り組みが今なお進められています。
短期滞在旅行者や訪問者ができることは何か?
しかし、それでは短期滞在旅行者や訪問者がカンボジアの貧困問題を直接的に解決することはできないのでしょうか?
直接的支援のハードルは非常に高いですが、以下のような方法であれば比較的障害はなく現地支援に貢献できるのではないかと考えます。
1.ボランティア活動に参加する
現地のNPOや市民団体が主催するボランティア活動に参加することで、地元の人々に直接貢献することができます。
例えば、教育支援や医療支援、貧困層への食糧支援などです。
2.現地の商品を購入する
カンボジアには、現地で生産されたハンドメイドの商品や農産物など、魅力的な商品がたくさんあります。
これらの商品を購入することで、現地の経済を支援できます。
学校や教育機関の整備を進めることが重要です。
3.地元のガイドや運転手を雇用する
現地の人々に仕事を与えることで、雇用の創出につながり、貧困問題の解決につながります。
地元のガイドや運転手を雇用することで、現地の文化や習慣を学び、交流を深めることもできます。
4.教育支援に協力する
カンボジアでは、学校の建設や教育支援が必要な地域がたくさんあります。
教育支援に協力することで、子どもたちの教育環境を整備し、未来の発展につながります。
一人一人の支援によって、国やそこに暮らす人々の生活水準の向上に繋がっていき、持続可能な開発目標の達成に近づけていく事ができるのではないかと考えられます。
カンボジアとHIS
弊社は2005年、日系旅行会社として初めて直営支店をカンボジア・シェムリアップに開設しました。 世界遺産観光のツアーからスタートし、2010年からは現地支援を目的の一環として孤児院を訪問するツアーを始めています。 現在まで10,000人近くの方にこのツアーにご参加いただき、その寄付金で大学まで進学できた孤児院の子どももいます。 また、カンボジアの為に活動を始めた参加者も多くいらっしゃいます。
人と人との交流が、多くの新しい可能性を生み出してきました。 2017年春には子ども達が無料で通える公立の小学校を多くの協力者・学生のもとで建設しました。その後も子供用遊具、図書館建設等、子ども達の未来を拓くための教育サポートを行ってきました。子供たちにとって将来の選択肢が広がり、貧困から抜け出すチャンスを創出できたのではないかと感じております。
おわりに
カンボジアは発展途上国であり、一部の情勢不安やインフラ未整備などの様々な課題、現地での生活や学習環境は、訪問者にとって考え深いものになるかもしれません。しかし、訪問するにあたり、十分な情報収集や安全面の注意など、事前の準備が必要となります。
以前に、専門学校で国際交流を目的にスタディツアーを実施しました。観光から始まり、現地NPO団体を訪問し、観光では見えない本当の暮らしや現状を知り、地雷博物館では歴史を学びました。 その後小学校では国の未来を担う子供たちと交流をしました。 帰国後もカンボジアでの経験は深く心に残り、今までとは全く異なる環境に身を置いたことで、自分がいかに恵まれていたかということ、カンボジアという国に対し少なからず偏見があったこと、これからしなければならないことなど、今後の生活や過ごし方、価値観を見つめなおすきっかけとなりました。
世界中からアンコールワットの観光名所の見学やアクティビティの参加を目的としたツアーが行われています。一般的な観光旅行であればそれが主目的であるはずです。 一方で、教育旅行においては、参加者が国やそこに住む人々が抱える社会課題を自分事のように捉え、一人一人がその光と影に目を向けて探求し、自分に何ができるのか、SDGs達成のための支援や協力などを盛り込む必要があるのではないかと思います。 そういった意味では、カンボジアは、歴史や文化、教育また社会課題などに関する多くの学びがある国です。訪問者が異文化に触れることで、自分自身を成長させることができる。教育旅行先としての可能性が大きい場所であります。
株式会社エイチ・アイ・エス
法人営業本部 教育旅行事業グループ
佐々木英史