小売業の「リアル」と「ネット」相反するのか~7Journey・ソシエタスクラスター分析で食料品・スーパーの今後の戦略策定のカギをみつける~
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コロナ禍以降の買い物事情
コロナ禍に入った際、緊急事態宣言もあり色々な行動制限があったなか、日常で大きく変わったことの一つと言えば食料品事情ではないだろうか。
外出への規制がありながら、食料品の買い出しは生活をする上で止めることができないので、ネットスーパーでの購入が増えている。総務省統計局の調査※1では2020年時点でコロナ前である2019年の2人世帯以上の支出額平均が2倍程度、2021年では3倍程度と伸び続けている。
一方でまとめ買いを推奨されていたリアル店舗については、経済産業省の調査※2によるとその販売額の伸びはコロナ禍当初2020年は一時的に急上昇したが、2021年になると落ち着きコロナ禍以前に戻った。
このことから、現在では「絶対にスーパーだけ」「ネットスーパーだけ」といったことではなく、どちらも利用するケースも大いにあると考えられる。これからを考えた場合、片方が正解ということではなく、両面から顧客へアプローチできるのであれば今まで以上のリピーター獲得の余地もあるのではないだろうか。
今回HISでは消費者データをもとに、実際にどちらの領域でもサービスを展開しているブランド”イオン”を取り上げ、それぞれでどのような顧客層を獲得しているのか・できていないのかを明らかにし、今後の食料品・スーパーの経営戦略についてどう活かしていけそうか考察していく。
※1. 家計消費状況調査年報(令和3年)(総務省統計局)
※2. 経済産業省「商業動態統計」から作成された「2022年上期小売業販売を振り返る」(2022年10月,経済解析室)
今回使用するKnowns Bizの分析軸
Knowns Bizは、一般消費者向けに企業やブランドに対するイメージに関する定期的なアンケートを実施、分析した上で情報を蓄積するプラットフォームDaaS(Data as a Service※3)である。これを活用し各ブランドに対するイメージの違いと、各ブランドを選好する消費者の属性や価値観の違いに着目して考察を行った。
今回Knowns Bizの「7Journey・ソシエタスクラスター分析」を利用して、イオンとイオンネットスーパーの分析・比較をしていく。
7Journeyは、Knowns Bizの分析で用いられる特徴的なフレームワークである。カスタマージャーニーにおけるステージを「未認知※4」「チャンス※5」「きっかけ待ち※6」「巻き戻し※7」「離反※8」「ロイヤル※9」「離反予備軍※10」の7つに分類し、セグメントごとの顧客行動の特徴を理解し、それに対する最適なマーケティング施策を検討するために用いられる。
またKnowns Bizでは、サイコグラフィックデータをもとに、個人的価値観・社会的価値観・消費的価値観の3つの観点で「ソシエタスクラスタ」という集団に細分化しており、今回そのなかでも消費的価値観に注目した。
まず7Journey分析を起点に、スーパー業界でのイオン、ネットスーパー業界でのイオンネットスーパーを分析しながら、そのうえでソシエタスクラスター分析を交え、顧客の典型的な人物像へ迫っていく。
※3. 膨大なデータベースをBIによって可視化・分析し、ソフトウェア上でダッシュボード化された情報を提供するサービス
※4. ブランド認知がないセグメント。利用するまでのハードルが高く事業の成長や長期的な安定を目指す上で開拓すべき層
※5. 認知あり・購買経験なし・購入意向ありのセグメント。ブランドに魅力を感じているものの、利用するきっかけがなく顧客となっていない層
※6. 認知あり・購買経験なし・購入意向なしのセグメント。ブランドに魅力を感じておらず、特に利用する必要性がないと感じている層
※7. 認知あり・購買経験あり現在購買なし・購入意向ありのセグメント。ブランドに対する評価は高いが、何らかの理由で利用しなくなった層
※8. 認知あり・購買経験あり現在購買なし・購入意向なしのセグメント。ブランドに対する評価が低く、ブランドから離反した層
※9. 認知あり・購買経験あり現在購買あり・購入意向ありのセグメント。ブランドを使用してロイヤリティが高く、離反リスクの低い層
※10. 認知あり・購買経験あり現在購買あり・購入意向なしのセグメント。ブランドを使用しているがロイヤリティが低く、離反リスクの高い層
7Journey・ソシエタスクラスター分析からみる“イオン”
Knowns Bizのデータによると、イオンは業界全体で認知度・満足度が共に上位のスーパーである。まず、イオンに対する購入・認知・未認知などがどういった割合なのか7Journeyで見ていく。
上記図1から認知率が94.9%となっており、そのうち現在も購入している顧客(ロイヤル+離反予備軍)が68.7%とほとんどを占めている。現状イオンを知っており、その上で現在も利用しているという層がかなり多いことが分かる。一方でイオンは知っているが利用したことがないという潜在顧客(チャンス+きっかけ待ち)が7.8%ほどおり、来店までのハードルとなっている部分をどうクリアにしていくのかを考えることでより顧客に厚みを持たせることもできそうだ。
最初に顧客層について、一体どういった顧客がいるのか消費的価値観に注目してソシエタスクラスター分析をする。
順位 | 消費的価値観 | 特徴度 |
---|---|---|
1 | レビュー熟考消費※11 | 104% |
2 | スノッブ消費※12 | 103% |
3 | お得感重視消費※13 | 103% |
4 | 良いモノ長もち消費※14 | 103% |
5 | イノベーター消費※15 | 102% |
イオンの顧客層が持っている消費的価値観の中で、スーパー業界全体と比較して割合が高かった価値観をランキング形式で表にした。Knowns Bizではその割合を表にある特徴度という名称で表現している。「レビュー熟考消費」が一番上に来ていることより口コミなどの情報を吟味し、消費行動に移すタイプが比較的多いとわかる。イオンはSNSの発信も多く、コメントやそれに伴うハッシュタグで商品情報を見ることが出来る点がこの価値観とのマッチに関係してくるだろうか。
また「お得感重視消費」がランクインをしているところをみると、お得感や安いと感じるタイミングに購入したいタイプが多いと読み取れる。毎月『お客感謝デー』を設けて割引を行っていたり、WEBチラシ限定クーポンなどの取り組みを顧客が「お得感」というイメージと結びつけているのかもしれない。
順位 | 消費的価値観 | 特徴度 |
---|---|---|
1 | お得新品消費(主義)※16 | 141% |
2 | ジャケ買い消費※17 | 135% |
3 | 見極め消費※18 | 123% |
4 | トレーサビリティ重視消費※19 | 122% |
5 | プレミアム消費※20 | 121% |
一方で潜在顧客層は一体どんな消費的価値観を持っているのか。 一部「お得新品消費(主義)」や「見極め消費」については顧客層とも似ている部分があり、来店へのきっかけさえあれば取り込むことができる可能性がある。一方で「トレーサビリティ消費」や「プレミアム消費」のように、生産者の顔が見えることを重視するタイプであったり商品に対する付加価値を求めている層に対してどのようにアプローチしていくのかが戦略策定のカギになるかもしれない。
※11. 売れ行きが良いや口コミで評判が良いを判断軸にする消費行動
※12. 他人とは違うものを選びたい消費行動
※13. セールであったりクーポンが使用できるタイミング、もしくはオマケがついてくるなど、お得だと感じる時や、安く手に入る時に購入したいと考える消費行動
※14. 価格よりも利便性や機能を求める消費行動
※15. 新しいモノは、まず自分で試してみたい
※16. 労力をかけても、お得に賢くお買い物をしたい消費行動
※17. デザインを機能性より重視する消費行動
※18. 流行に流されず、内容を吟味して購入判断する消費行動。自身の選択眼にも自信がある
※19. 生産者の顔が見えるのが好き、こだわりを知って買いたい
※20. 自分のお気に入りにこだわり、付加価値(プレミアム)に対してしっかりと対価を払う消費行動
7Journey・ソシエタスクラスター分析からみる“イオンネットスーパー”
イオンネットスーパーはKnowsBizのデータによるとスーパー業界でのイオンと異なりネットスーパー業界全体では認知・満足度で中堅層となる。まず、イオン同様に7Journeyを見ていく。
上記図2から認知率が41.3%となっており、そのうち顧客(ロイヤル+離反予備軍)が4.5%と僅かである。一方でイオンネットスーパーは知っているが利用したことがないという潜在顧客(チャンス+きっかけ待ち)が33.1%ほどおり、現状知っていても利用していないという層がかなり多いことが分かる。また未認知層も58.7%もいるのでリアル店舗だけではなくネットスーパーでも顧客を獲得していくには、潜在・未認知層へのアプローチをどう行っていくかがカギになる。
潜在顧客層について、一体どういった顧客がいるのかソシエタスクラスター分析をする。
順位 | 消費的価値観 | 特徴度 |
---|---|---|
1 | お得感重視消費 | 112% |
2 | コスパ消費※21 | 110% |
3 | 良いモノ長もち消費 | 109% |
4 | トレーサビリティ重視消費 | 108% |
5 | トレンド・限定重視消費※22 | 105% |
消費的価値観ランキング
「お得感重視消費」「コスパ消費」「良いモノ長もち消費」が上位に来ていることから、スーパー業界のイオン顧客層と同様に手頃な価格で商品を探したい傾向の人が潜在顧客に多そうである。ただ「トレーサビリティ重視消費」に関してはイオン潜在顧客層と同様で、生産者の顔がみえる商品を重視するタイプの人物像もみえ、その方面に対するアピールが今以上にあると新しい顧客層の獲得もできるのではないかと考えることもできる。
順位 | 消費的価値観 | 特徴度 |
---|---|---|
1 | お得新品消費(主義) | 111% |
2 | 気にしない消費※23 | 111% |
3 | 良いもの良い価格消費※24 | 111% |
4 | ジャケ買い消費 | 108% |
5 | コレクター消費※25 | 107% |
ソシエタスクラスター分析(未認知層)消費的価値観ランキング
一番多い割合を占める未認知顧客層についてはどういった消費的価値観タイプがいるだろうか。
未認知層の中でも「お得新品消費(主義)」「良いもの良い価格消費」といった 慎重に情報収集をして損をしたくないタイプが上位にランクインしている。これをみると今のスーパー顧客層が持っている性質と似ているのでイオンネットスーパー認知のためにイオンの強みを違った角度でアピールすることでリーチできる可能性も見えてくる。
ちなみに数パーセントの顧客層の消費的価値観だが、上位に「お得新品消費(主義)」がランクインしているので上記の考え方もあながち大きく外れていないと裏付けもできる。
※21. コストパフォーマンスを意識して行われる消費行動
※22. 流行りのものや限定のものを買う消費行動
※23. ブランドや原産国などに対するバイアスがなく、品質など気にしない消費行動
※24. 商品に対するこだわりがあり、多くの情報を集めて気に入ったものを適正価格で買う消費行動
※25. 作り手の想いや商品開発に込められたストーリーに共感して購入する
考察
今回食料品・スーパーの今後の戦略策定を考察するにあたり、イオンに焦点を当て、7Journeyとソシエタスクラスター分析を使って顧客層を分析した。リアルスーパーの方については認知率が高く、リピーターとなる顧客層も多く今までの戦略のまま潜在顧客をどう来店させるかの部分に注力する方向性で考えることができ、またネットスーパーについてはそもそもの認知率が業界の中でも中堅のため現在イオンが持っている強みを活かした認知向上への戦略を立てることが重要になる可能性が高い。
これはイオンの場合であるがもしまだネットスーパー業界は踏み入れていないブランドであれば、自社の7Journeyをデータ検索して、強みを活かすのか、届いていない層に向けたサービスにするのか様々な戦略のカギとなるデータを気軽に探すことができるだろう。