海外への出張・赴任
安全配慮義務の対策ポイントとは?
出張や赴任で従業員を海外に派遣する際の安全配慮義務について十分理解していますか?
・そもそも安全配慮義務がよくわからない
・国内では対策しているが、海外では対策できていない
・安全配慮義務を果たすために実際に何をすればいいのかわからない
このような課題がある方におすすめのコラムです。このコラムでは安全配慮義務の範囲と海外派遣において留意すべきポイントについて解説します。
安全配慮義務とは?
企業が従業員に対して負う法的責任として、安全配慮義務があります。使用者である会社は、従業員が安全に働くことができるようにする義務を負うことが、労働契約法によって明確に規定されています。
労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
厚労省の解釈・通達*1によれば、この法律には以下のような内容を含むとされています。
1.労働契約に当然付随する義務
「労働契約に伴い」とは、労働契約書に特段の根拠規定がなくとも、労働契約を締結した時点で安全配慮義務が当然生じることを意味します。
2.心身の健康の内包
「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれます。
3.必要な配慮の範囲
「必要な配慮」は一律・特定の対応を求めるものではなく、労働者の職種・労務内容・労務提供場所等の具体的な状況に応じて必要な配慮を求めるものです。
ただし、労働安全衛生法をはじめとする関連法令が定める具体的な措置は、当然満たす必要があります。
すなわち、企業は従業員の個別具体的な状況に応じて、その安全に配慮し、必要な措置を講じることが求められています。
従業員を出張や赴任などで海外に派遣する場合も、当然安全配慮義務は存在しているため、海外という具体的な状況に合わせた措置を講じる必要があるのです。
これを怠ると、従業員を危険に晒すだけではなく、安全配慮義務違反として民事上・刑事上の責任を問われ、会社は大きな損害を被ることになります。
1 参考: 厚生労働省 労働契約法のあらまし より
安全配慮義務不履行を問われないために
従業員が危険に巻き込まれた際、企業が安全配慮義務を果たしているかどうかは、「予見可能性」と「結果回避可能性」によって測られます。
予見可能性は、その危険を合理的に予測できたかどうかを問うものです。たとえば、海外の紛争地帯に従業員を派遣した場合、紛争に巻き込まれる危険は十分予測できたと判断され、安全配慮義務の不履行を問われることがあります。たとえ派遣を決定した管理者がその紛争を知らなかったとしても、情報収集を行うことは当然の業務であると認定される可能性がある点にも注意が必要です。
結果回避可能性は、危険を予見した上で、合理的に十分な回避措置を講じていたかどうかを問うものです。同じく紛争地帯の例でいえば、警備護衛をつけたり安全な地域での活動に限定するといった対応策を講じているかが問われ、これを怠れば安全配慮義務の不履行となります。
従業員を出張や赴任などで海外に派遣する場合は、情報収集を行って現地の危険性を把握し、その個別具体的な危険に対して必要な措置を講じることが重要です。
安全配慮義務を果たす具体的な措置
前述の通り、企業は各従業員の状況に応じて必要な措置を講じる義務があるため、一様に十分な措置を定めることはできませんが、最低限必要で基本的な対策としては以下のポイントが考えられます。
戦争やテロ・天災などの「セキュリティリスク」と、疾病罹患・事故などでのケガ・感染症流行などの「メディカルリスク」の2つに分けて解説します。
セキュリティリスク
1.危険情報発信
戦争やテロ・天災などの発生を一早く把握し、従業員に対して危険を通知します。同時に管理者もこれらの情報を速やかに収集し初動対応を早めます。
2.位置情報把握、安否確認
管理者は、危険が発生した地点と従業員の現在地の位置関係を把握し、危険の程度を予測します。また、従業員に対して安否確認を行い、必要な支援を図ります。
3.緊急避難、安全確保
管理者は、従業員に危険が迫っている場合、退避できるよう支援します。退避が難しい場合は現地で最大限安全が確保できるような措置を講じます。
4.運用体系化
一連の情報発信から避難実行までの手順を管理者と従業員で平時から事前に確認し、いざ有事が発生した際に滞りなく対応できるよう運用を体系化します。
メディカルリスク
1.ヘルスケア
管理者は、従業員に対して健康診断やセルフチェックを活用し健康状態を把握させ、改善が必要な場合は医師に相談するなど健康の維持を促します。
2.医療相談
管理者は、従業員が心身の健康を害した際、医療機関の受診を促します。従業員が安心して相談できるよう、日本語の医師や専門医が対応するような環境を整えることも重要です。
3.医療搬送、保険
従業員の健康状態が極度に悪化した場合、日本等への医療搬送を支援します。また、それらを金銭的に可能にするためにあらかじめ保険を付保します。
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まとめ
このように安全配慮義務とは、企業が従業員の安全を確保するために必要な配慮をする法的責任のことで、労働契約法により規定されています。従業員を海外に派遣する場合も、安全配慮義務は存在し、具体的な状況に合わせた措置が求められます。
安全配慮義務を果たすためには、危険を予見し、回避措置を講じることが重要です。具体的な措置としては、セキュリティリスクとメディカルリスクの2つに分けて対策を行うことが考えられます。
セキュリティリスクでは、危険情報の発信、位置情報の把握、安否確認、緊急避難、安全確保、運用体系化が、そしてメディカルリスクでは、ヘルスケア、医療相談、医療搬送、保険が重要な対策となります。
参考文献
厚生労働省 労働契約法のあらまし