古来より琉球王国独自の文化や大陸との交流により、本土とは大きく異なる発展をしてきた沖縄。
今なお数多く残る琉球王国時代の伝統様式や建物群など、グスクと呼ばれる城跡や関連建築群が、2000年12月に世界文化遺産として登録されました。
さらに、2021年にはかねてからの悲願であった、沖縄本島北部・やんばる地域や八重山諸島の西表島が、生息する生物の多様性並びに独特の進化を評価され、世界自然遺産に認定されました。
世界文化遺産と世界自然遺産の2種の世界遺産を持つ沖縄について、その魅力に迫ります。
【世界文化遺産】琉球王国のグスク及び関連遺産群
沖縄県には有名な首里城の他、200から300のグスクが存在すると言われ「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として、5つのグスクと4つのグスク関連遺産の合計9か所が世界文化遺産に登録されました。
グスクとは、かつて「御城」とも書かれ、12世紀から16世紀にかけて沖縄の各地を支配していた「按司(あじ)」と呼ばれる豪族層が築いた城のことを指します。
沖縄のグスクは、本土とはまったく異なる歴史と文化で成り立っており、「角の立った直線的な石垣」や「お堀」はなく、優美で雄大な石垣を持ちます。
高度な野面積み、布積み、相方積みの技術で作られ、大陸の宮殿の影響を大きく受けた緩やかなカーブを持つ曲線城壁が特徴です。
この複雑な曲線は、間近まで迫った敵を側面からの攻撃で撃退することが目的でした。
また、石垣や城壁の一部にあるアーチ状の「門」から出入りすることが特徴で、グスクによっては門の上に楼閣状の建物が作られているものもあります。
あわせて、祈りを捧げる場(御嶽)があることも、大きな特徴といえるでしょう。
この記事では、9つそれぞれに特徴のある沖縄の世界遺産について解説していきます。
首里城に匹敵する圧倒的なスケール~今帰仁城跡~
沖縄本島北部の本部半島にあるグスクで「北山城」の別名でも知られている今帰仁城(なきじんじょうあと)は「日本100名城」にも選定される名城です。
面積は約8ha、城壁は全長1.5kmもある規模は、首里城に次ぐ圧倒的なスケール。
琉球王国の成立前の三山時代に「北山王」の居城として作られた城で、琉球王国の成立後は、王府から派遣された監守の居城とされています。
石垣は「野面積み」といわれる、もっとも古い工法を見ることができます。
標高約100mの高台にあるグスクで、城跡の「御内原」というポイントからのロケーションは最高です。
毎年1月頃には、カンヒザクラが咲く桜の名所でもあり、これは「日本一早く咲く桜」として人気です。
今帰仁城跡 基本情報
- 住所:〒905-0428 沖縄県国頭郡今帰仁村字今泊5101
- アクセス:那覇空港から車で約2時間45分、やんばる急行バスで今帰仁城跡入口バス停下車徒歩約15分
「続日本100名城」に選ばれた読谷村の城~座喜味城跡~
座喜味城跡(ざきみじょうあと)は築城の名人として中城城の増築も行なった、読谷山の按司・護佐丸の手により、15世紀はじめ頃に築かれたとされるグスクです。
標高約120mの丘陵地に立ち、最高部からは読谷村をぐるっと見渡せる素晴らしいロケーションが楽しめ、「続日本100名城」にも選ばれました。
2つの郭で構成された城壁は、ダムのアーチ構造のようにとても優美です。
他のグスクは石灰岩の岩盤の上に石積みされていますが、座喜味城は土の上に幅広で強固な城壁を積み上げる構造になっています。
城壁は主に「布積み」という方法で石が積まれていますが「相方積み」や「野面積み」といった技法も使われ、沖縄のグスクでの主な石積み技法を一度に見ることができることも特徴です。
併設されている、2018年6月23日にリニューアルオープンした「ユンタンザミュージアム」では、1F展示室に世界遺産・座喜味城跡や読谷の自然や文化遺産の展示、2F展示室では考古・民俗・自然・沖縄戦についての展示が見学でき、その中でガマや亀甲墓等のジオラマを通して詳しく学ぶことができます。
当時の風景をバーチャル体験できる~勝連城跡~
今回登録された「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の中で、最も古いとされるグスクの勝連城跡(かつれんじょうあと)、その歴史は12世紀ごろまで遡ると言われています。
元々は、勝連半島を勢力下においていた按司の阿麻和利(あまわり)の居城で、阿麻和利は東アジアとの貿易を進めるなどして地域の繁栄に努めました。
高い山の断崖を利用した構造は難攻不落(攻撃するのがむずかしく、たやすく陥落しないこと)と言われていますが、なだらかな曲線を描く城壁は優雅さも漂わせます。
グスクの最上部までは石造りの階段を歩く必要がありますが、南には中城湾、東には海中道路が見えるなど、その景色は最高です。
2021年には勝連城跡のふもとに「あまわりパーク」のメイン施設「歴史文化施設」がオープンしており、勝連城跡からの出土品を見ることができたり歴史を学ぶことができます。
あまわりパークと城郭内にはWi-Fiが通り、城内の各ポイントでは、当時の風景を再現するバーチャルツアーをスマートフォンで楽しめるなど、体感できる観光スポットでもあります。
なだらかで美しい曲線の城郭~中城城跡~
中城村と北中城村にまたがる、中城城跡(なかぐすくじょうあと)。
標高約150mから170mの、石灰岩丘陵上にある山城です。
琉球石灰岩を成形して積み上げた6つの郭からなり、城郭がなだらかで美しいラインを描いています。
築城年代は不明ですが、14世紀後半に築かれたとされています。
1440年頃、座喜味(ざきみ)城主護佐丸(ごさまる)が、王府の命令で中城城に移り、当時の最高の築城技術で増築し、現在の形になりました。
南東側の切り立った断崖と、北西側の急傾斜地形を最大限に活かして築城され、守りに強い城となりました。
自然石と地形的条件を巧みに生かした城郭は、当時の高度な石積技術を現代に伝えています。
琉球王国には300ほどの城がありますが、中城城跡は太平洋戦争の被害が少なく、県内ではもっとも原型をとどめている城です。
琉球王国のシンボル~首里城跡~
琉球王国の王城だった首里城は沖縄県内では最大規模のグスクで、首里城の歴史は琉球王国の歴史そのものであり、沖縄の人(うちなーんちゅ)にとって心の拠りどころです。
首里城の創建は14世紀頃と推定されており、明治維新の琉球王国滅亡後も存在していましたが、太平洋戦争で破壊されてしまいました。
その後、1980年代から本格的な復元が始まり1992年に正殿などが復元され、2000年の九州・沖縄サミットでは社交夕食会が開催されました。
正殿は美しい朱色に塗られ、中国と日本の建築様式が融合した独特の美しさを誇ります。
2019年10月31日にその正殿と周辺が火災により消失してしまったことは記憶に新しいですが、弐千円札の絵柄になっている「守礼門(しゅれいもん)」や付近一帯の首里城公園はこれまで通り見学できます。
2026年正殿完成に向けて復興中の正殿周辺有料エリアも入場可能で、新設された見学デッキからは平成の復元の様子とともに「今」しか見ることが出来ない貴重な復興の様子を見学できます。
※世界遺産の登録は「首里城跡」であり、復元された建物や城壁は世界遺産に含まれません。
神様が集まる神聖な場所~園比屋武御獄石門~
首里城公園内を守礼門から少し進んだところにある石門とその奥に続く森一帯が「園比屋武御嶽(そのひゃんうたき)」です。
御嶽とは神様が集まる神聖な場所で、かつて琉球国王が外出する際にここで安全を祈願したといわれています。
形や名称は「門」ですが、いわゆる人が通るためのものではなく、礼拝所のような役割を果たしていたとのこと。
創建は1519年で、一度は沖縄戦で破壊されましたが、1957年に復元されました。
現在は世界遺産にも登録されている他、国指定の重要文化財にも指定されています。
沖縄県内で建造物として初の国宝~玉陵~
首里城公園内にあり、1501年、第二尚氏王統の第三代目の王、尚真王が父尚円王の遺骨を改葬するために築かれ、その後、第二尚氏王統の陵墓となったのが、玉陵(たまどぅん)です。
墓室は3つに分かれ、中室は洗骨前の遺骸を安置する部屋、創建当初の東室は洗骨後の王と王妃、西室には、墓前の庭の玉陵碑に記されている限られた家族が葬られました。
全体の造りは、当時の板葺き屋根の宮殿を模した石造の建造物となっています。
こちらも沖縄戦で大きな被害を受けましたが、1974年から3年余りの歳月をかけて修復工事が行われ、現在では往時の姿を取り戻しました。
1972年5月15日に玉陵墓室石牆(たまうどぅんぼしつせきしょう)が国指定有形文化財建造物に、玉陵は国指定記念物史跡に指定されました。
そして2018年12月25日には、沖縄県内で建造物として初めて、正式に国宝に指定されました。
首里城跡・園比屋武御獄石門・玉陵 基本情報
- 住所:〒903-0815 沖縄県那覇市金城町1-2(玉陵のみ1-3)
- アクセス:那覇空港から車で約40分、ゆいレール首里駅下車徒歩約15分、首里城前バス停下車徒歩約1分
国指定「特別名勝」~識名園~
識名園(シチナヌウドゥンと呼ぶこともあります)は、琉球王家最大の別邸で1799年につくられ、国王一家の保養や外国使臣の接待などに利用されました。
1677年に首里の崎山村につくられた御茶屋御殿(ウチャヤウドゥン)が、首里城の東に位置したので「東苑(とうえん)」とも呼ばれたのに対し、首里城の南にある識名園は「南苑(なんえん)」とも呼ばれました。
識名園の造園形式は、池のまわりを歩きながら景色の移り変わりを楽しむことを目的とした「廻遊式庭園(かいゆうしきていえん)」ですが、「心」の字をくずした形の池(心字池)を中心に、池に浮かぶ島には中国風あずまやの六角堂や大小のアーチが配され、池の周囲には琉球石灰岩を積みまわすなど、随所に琉球独特の工夫が見られます。
かつては、春は池の東の梅林に花が咲いてその香りが漂い、夏には中島や泉のほとりの藤、秋には池のほとりの桔梗(ききょう)が美しい花を咲かせ、常夏の沖縄にあって、四季の移ろいも楽しめるよう、巧みな配慮がなされていました。
1976年1月30日に国指定「名勝」、2000年3月30日には国指定「特別名勝」となり、その後世界文化遺産に認定されました。
神秘的な雰囲気が広がる~斎場御嶽~
斎場御嶽(せーふぁうたき)は、琉球王国最高の聖地とされており、御嶽内にある6つの聖域の内2つ(満寄【ゆいんち】、大庫理【うふぐーい】)が首里城内にある部屋と同じ名称がつけられています。
神秘的な雰囲気が広がる斎場御嶽には、沖縄の人々の生活や信仰、自然への敬いが太古の昔から受け継がれています。
観光で訪れた際には、斎場御嶽をより詳しく知ることができるガイドツアーへの参加がおすすめです。
※斎場御嶽内の三庫理は立ち入り制限がありますのでご注意ください。
【世界自然遺産】奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島
かねてより「東洋のガラパゴス」と呼ばれることもある西表島や、絶滅危惧種の生物が多く生息する沖縄本島北部のやんばる地域。
世界の生物多様性ホットスポットの一つである日本の中でも、生物多様性が突出して高い地域である中琉球・南琉球を最も代表する区域であると、世界遺産の候補として推薦されました。
特にこの地域には多くの種が生息し、絶滅危惧種や中琉球・南琉球の固有種が多く、それらの種の割合も高いことが特徴です。
さらに、さまざまな固有種の進化の例が見られ、特に、遺存固有種及び/または独特な進化を遂げた種の例が多く存在することが世界自然遺産認定の決め手となっています。
ここにしか生息しない貴重な固有種が見られる~沖縄北部・やんばる~
2021年に世界自然遺産登録された沖縄本島北部やんばる国立公園にある大石林山(だいせきりんざん)
約2億5千万年前は海底だった石灰岩層が隆起し、長い歳月をかけて雨水などによる侵食でできた、世界最北端の熱帯カルスト地形が広がります。
ヤンバルクイナなどに代表されるここにしか生息しない貴重な固有種が見られることでも知られ、複数のトレッキングコースの他、専門ガイドが案内するガイドツアーでやんばるの大自然を深く知ることができます。
国際的にも希少な固有種の宝庫~西表島~
「国際的にも希少な固有種に代表される生物保全上重要な地域である」と評価され、世界自然遺産に登録された西表島。
石垣島と同じ八重山諸島の西表島は、島全体が西表石垣国立公園に指定され、天然記念物のイリオモテヤマネコやカンムリワシなどの固有種が生息する豊かな自然が自慢です。
うっそうと茂るマングローブ林、亜熱帯のジャングル、ダイナミックな川や滝、日本最大のサンゴ礁、秘境とも呼ばれる雄大な自然が、ネイチャーツーリストから熱烈な支持を受けています。
最後に
世界に誇る9つの【世界文化遺産】と、類稀な手つかずの大自然の【世界自然遺産】。
趣の異なる2つの世界遺産を学び、体感できる沖縄へは、夏以外のシーズンこそ、混雑を避けてじっくりと楽しめるうえ、旅行代金も比較的リーズナブルなのでおすすめです。