「私がお茶を作っている水沢地区は、鈴鹿山脈の麓で特に雨がよく降ります。これがお茶には良い。
近くを流れる内部川は伏流水から流れ出て、静かな時には地下水の音が聞こえるほど、とても自然が豊かなんです。
土壌も水はけが良く、お茶づくりに適しています。
ここで育ったお茶は、綺麗な緑色が特徴です。流れる水が綺麗だからこそ、綺麗な翠(ミドリ)色のお茶を作るんです。」
水沢地区は環境だけでなく、北西部という京都に近い立地が歴史的に大きな役割を持つ。抹茶(てん茶)の原料である「かぶせ茶」には萩村さんの強い想いがある。 「古くから茶道の歴史・文化が発展した京都の人々に、水沢のお茶が好まれました。
“水沢のお茶は、みずいろ(お茶の色)が良い”
と言ってもらえます。
茶道をする京の人々は、お抹茶の色も大切にしますから。その京の人々に好んで選んでもらえるのが水沢の抹茶なんです。」
抹茶に関して熱く語る萩村さん。実は本人が茶道を意識し始めたのは、仕事を始めてしばらく、海外へ行くようになってからだと言う。
「仕事で海外に行き始めて、茶道を始めました。
茶道の心得もなく、抹茶を出すわけにはいかないと思いまして。」
海外での経験が、お茶への気持ちをさらに変えるきっかけとなる。 「メキシコでお茶を点てる機会があったんです。その時、メキシコの方が、すごく感動してくださったんです。
お点前は、じゃんじゃん点てられないじゃないですか。一球入魂。一椀のため、1人のために一生懸命点てるんです。
そしたら、目の前の人が涙ウルウルさせて、とても感動してくださったんです。それがとても嬉しかった。
”こんなに喜んでもらえるんだ”と思った瞬間でした。」
萩村製茶では、抹茶だけでも種類をいくつか作っています。
少し違いをお伝えすると、抹茶「すいざわ」は薄茶用です。
色へのこだわりはもちろんですが、点てている時にお抹茶の香りがして欲しいので、香りが立つように焙煎を工夫しています。品種をブレンドして、芳醇で奥深い味にしています。
もう一つの抹茶「泗翠(しすい)」は、お濃茶用。お濃茶のお点前でも使える手摘みの抹茶です。これは萩村製茶の中でも一番グレードが高いものですね。
一般的なお茶席は薄茶を楽しむので、その時は「すいざわ」が良いと思います。」
萩村さんのお話を聞いていると、お茶へ対する真っすぐな気持ち、プロとしての並々ならぬこだわり、そしてお茶をつくる者として文化を継承したいという想いを感じる。
「水沢でお茶を作っていてよかったなぁ、と思えるような環境づくりみたいな事を僕はしていきたい。」
萩村さんは、お茶を伝える活動として、日本茶インストラクターを取得。
製茶業だけでなく、インストラクター三重支部でのリーダー活動の他、学校へ出向き講師としてお茶の飲み方を伝えたり、海外への発信も続けている。
萩村浩史さん
1972年、三重県生まれ。有限会社萩村製茶にて日本茶の生産に携わる。
個人では、第4回日本茶インストラクター・アドバイザー茶審査技術競技大会静岡大会 個人戦にて全国2位。
NPO法人 日本茶インストラクター協会三重県支部長を務め、精力的に活動する。